月夜の翡翠と貴方


兄は、私によく構うようになっていた。

優しく、けれど苦しそうな顔をして、私の頭を撫でる。

それが無性に、私の不安を掻き立てた。


「リズパナリがおかしくなり始めたのは、ナタナが原因なのは、すぐにわかった」

いつも余裕そうな顔をした若い男で、いつも、私を見かけては髪や容姿を褒めた。

ナタナのあの、美しく、それでいて悪寒がするような笑みは、忘れられない。


『珍しい髪色だね』

『美しい…まるで人形のようだ』


「…なんて言って、私の頭を撫でた。両親はそれを見て、苦しそうな顔をしてた」

そう言うと、窓の外を眺めていたルトは、何かに気づいたように、こちらを向いた。

目が合うと、ふ、と私は笑う。

ルトは、頭がいいね。

「ルトが、思ってる通りだよ。ナタナが、私の最初の主人」

忘れるはずのない、あの人。

優しくて、私を大事にしてくれた。

そして何よりも、忌み、蔑んだ目で、いつも私を見ていた。

あの人が、今までの主人のなかでいちばん優しくて、それと同時にいちばん私を嫌っていた。


< 460 / 710 >

この作品をシェア

pagetop