月夜の翡翠と貴方
兄は、私によく構うようになっていた。
優しく、けれど苦しそうな顔をして、私の頭を撫でる。
それが無性に、私の不安を掻き立てた。
「リズパナリがおかしくなり始めたのは、ナタナが原因なのは、すぐにわかった」
いつも余裕そうな顔をした若い男で、いつも、私を見かけては髪や容姿を褒めた。
ナタナのあの、美しく、それでいて悪寒がするような笑みは、忘れられない。
『珍しい髪色だね』
『美しい…まるで人形のようだ』
「…なんて言って、私の頭を撫でた。両親はそれを見て、苦しそうな顔をしてた」
そう言うと、窓の外を眺めていたルトは、何かに気づいたように、こちらを向いた。
目が合うと、ふ、と私は笑う。
ルトは、頭がいいね。
「ルトが、思ってる通りだよ。ナタナが、私の最初の主人」
忘れるはずのない、あの人。
優しくて、私を大事にしてくれた。
そして何よりも、忌み、蔑んだ目で、いつも私を見ていた。
あの人が、今までの主人のなかでいちばん優しくて、それと同時にいちばん私を嫌っていた。