月夜の翡翠と貴方
ルトは少し驚いた顔をした後、静かに席を立った。
そして、私の近くのところで、寝台に腰を下ろす。
「…いいよ。続き、話して」
少しだけ低くなった声色に、私は思わず笑いそうになってしまった。
…こんな奴隷の哀れな昔話を、真剣に聞いてくれる。
貴方は本当に、おかしな人だ。
私は、すぅ、とひとつ息を吐く。
「それで…十二歳の冬の日に、突然父親の書斎のほうから、使用人の悲鳴が聞こえたの」
驚いて自室を飛び出して、書斎へ向かった。
使用人達が、わなわなと唇を震わせていた。
開け放たれた書斎の扉の前では、執事が『おやめ下さい』と叫んでいた。
兄は、この日遠征していて、不在だった。
使用人の静止を振り払って、執事の脇を通り抜けて、私は書斎へ足を踏み入れた。
ナタナだった。
ナタナが、あやしげな男を数人連れて、両親を囲んでいる。