月夜の翡翠と貴方
『…マリアに…マリアにだけは…!』
叫んだ母親の顔の目の前に、怪しげな男の剣が突きつけられた。
両親、使用人達が、息を飲む空間のなかで、ナタナひとりだけが、楽しそうに笑っている。
何故、こんなことになっているのだろう。
あまりに信じられない光景で、頭がついていかない。
ただ目を開いて立ちすくむ私に、ナタナが言った。
『…マリア、よく聞くんだ。貴女の家は、たった今、消えた』
消えた…………?
『もともと鉱物もよく売れていなかったからね….このままでは領地を腐らせてしまう。だから、私が領主を代わったんだよ』
ナタナが言っている意味がわからない。
いや、こんな状況じゃなければ、きちんと意味を理解できたかもしれない。
今の私には、眉を寄せ、呆然とナタナを見つめることしか、できない。
『…よって、あなた方は邪魔なのだよ。リズパナリ夫妻』
とても低い声で。
両親に、剣が突きつけられた。
ひっ、と父親が怯えた声を出す。
母親は、小さく嗚咽を漏らして、涙をこぼした。