月夜の翡翠と貴方
...使用人は、何をしてるの。
はやく、お父様とお母様を、助けて。
そう思いながら、使用人達がそうしたくてもできないことを、私は幼いながらにわかっていた。
『…マリア。見ないほうがいい』
こちらを向かずに、そう告げられる。
執事が苦しそうな声で、私を呼んだ。
『………や…』
私だって、この状況がなにを意味するのかぐらい、わかる。
『いや………やめて………』
大きな声を出したいのに、私の口からは、か細い声しかでない。
自分が今、恐怖しているのだと思った。
何故、何故、こんなことに。
男のひとりが、剣を振り上げる。
それが見えたとき、執事が私の目を手で覆った。
その瞬間。
『マリアを!!』
父親の、声だった。
普段寡黙な父からは、想像できないほど大きな声だった。