月夜の翡翠と貴方


ナタナは私の後ろへ目を向ける。

『使用人達のいく宛も、しっかり用意してやるから、安心しなさい』

執事が、嗚咽を漏らして泣いているのが、聞こえた。

召し使いの女の、声を殺した泣き声が、耳に響く。


私は不思議と泣けなかった。

もう、泣く気力さえなかった。


両親に目を向けると、ぱっとそらされた。


捨てた娘に、今更罪悪感など感じるのか。

そう冷静に、心で呟いている自分がいた。

ナタナが、私を呼んだ。

彼と数人の男達が、書斎を出ようとする。

使用人達は、さっと道を開けた。

ナタナの手が、呆然としている私の手をつかむ。


『マリア。貴女はこれから、私の奴隷だ』


そう言って、彼は薄く笑う。


< 467 / 710 >

この作品をシェア

pagetop