月夜の翡翠と貴方


その答えを出すことは、自分への甘えのように感じた。


「…………ルト?」

しかし、一向に返事がない。

「…聞いてた?」

念のため、そう尋ねてみる。


「…聞いてたよ」


すると、少しだけ低い声が返ってきた。


「本当に?寝てたんじゃない」

「寝てねぇよ。つか、笑うな」


ルトが、ふに、と緩んだ私の頬を摘まむ。

「はは…」

悲しむような顔をするのは、嫌だった。

暗い顔をするのも、癪だった。

けれど、乾いた笑いしか出てこなくて。

この息のくるしさを紛らわしたいのに、笑うのが苦手な私は、上手く紛らわすことができない。

「…大丈夫か」

ルトの深緑が、私を捉える。

「……………ん」

笑うのをやめて、いつもの仏頂面で返事をすると、ルトは小さく笑った。


「話してくれて、ありがと」


愛おしい笑顔。

奴隷に礼を言う主人なんて、聞いたことがない。

奴隷に優しく笑いかける主人なんて、見たことがない。

けれど、それがルト。

私の、主人。


< 470 / 710 >

この作品をシェア

pagetop