月夜の翡翠と貴方
「あ、一応名前は偽名つかえよ」
それはつまり、ジェイドの名を使うなと言うことだろうか。
「……………」
貴族とふたりで話すなんて。
リロザのときは、彼がだいぶ貴族として特殊だったから話せたものの。
キッとルトを睨むと、彼は意味ありげに微笑んだ。
「…大丈夫だよ。お前も、前に進むんだろ」
その言葉に、私は目を見開いた。
…ああ、そうか。
ルトは、これさえも、私が前へ進むためのものだと考えているのだ。
セルシアを見ると、ルトの隣で不安そうにこちらを見つめていた。
「……………」
怖い?
貴族と話すのは、怖い?
自分に問いかけて、唇を噛んで。
いいえ、と心のなかで呟く。
私は、頭に巻いた布をとった。
碧の髪が、宙を舞う。
ルトは何も言わなかった。
被っとけ、とも、大丈夫か、とも言わなかった。