月夜の翡翠と貴方
すぅ、と息を吐いて、ゆっくりと吐く。
自分の姿を見て、そうか、と思った。
…あのときとは、違う。
私は今、令嬢ではない。
一介の、召使いで。
幼い私は、逃げていた。
いろんなことから、目を背け、逃げていた。
けれど、私はもう十八なのだ。
進むと、決めたのだ。
くる、と私はルトとセルシアに背を向け、ロディーのほうへ歩きだした。
そして、彼と目が合うと、柔らかく微笑む。
「ロディー様」
満月に照らされた髪が、輝いていた。
私の姿を見て、ロディーが一瞬息を飲む。
その瞳を、橙が捉える。
「はじめまして。私、セルシア様つきの召し使いの、ファナと申します」
優しく、淑やかに。
貴婦人の挨拶をすると、私は真っ直ぐにロディーを見つめた。