月夜の翡翠と貴方
ジェイドは、再度頭を下げる。
ロディーはしばらく碧の髪を見つめたあと、はっとしたように「ああ」と言った。
「…昼に、あの場にいた者だな。俺に伝えたいこと、とは?」
…どうやら、もうジェイドには自分の性格を隠す必要はないと判断したようだ。
俺の隣でセルシアが、唇を引き結んでふたりの様子を見ている。
ジェイドは、ロディーを真っ直ぐに見据えていた。
その姿はとても、平民とは違う確かな品格があって。
堂々とした振る舞いは、彼女が昔そういう立場にあったことを、思い知らされるものだった。
…急に、実感が湧く。
自分でロディーと『話して来い』なんて、命令してまで言ったというのに。
隣で固唾を飲んでふたりを見守るセルシアよりも、俺のほうが酷く動揺してるんじゃないかとさえ思えてくる。
貴族だったというジェイドは、それこそ幼いときだったとしても、やはりなくしきれない品格が、もとよりあった。
貴族家の娘だった、と言われて、妙に納得してしまった自分がいるのも本当だ。