月夜の翡翠と貴方


そして、夜会の会場のほうを見つめて、言った。


「…もう一度、俺と踊ってくれないか」


ロディーの言葉に、セルシアは驚いた顔をした。

しかしすぐに、「はい」と涙を溜めた瞳を細めて、笑った。

…その顔は、とても愛らしくて。


ロディーの顔が、また朱に染まったのだった。







あのあとすぐに、セルシアとロディーはふたりで会場へ入った。

セルシアが謝罪したあと、ふたりは今度こそ偽りない笑顔で踊った。

セルシアの泣いたあとはあまり目立たなかったが、ロディーの頬の赤みは結構わかりやすかった。

長い間主役共々外にいたものだから、あのふたりは不仲なのでは、とあちこちで囁かれ、ノワードはこの上なく蒼白な顔色をしていた。

和解し、周りから見ればうまくいきそうな雰囲気を出し始めたふたりに、後半は誰も何も言わなくなった。

しかし、これから先ふたりが些細な喧嘩をして、こうも毎回顔面蒼白にしていたら、ノワードはそのうち倒れてしまうのでは、と心配になる。

杞憂で終わることを願おう。





< 528 / 710 >

この作品をシェア

pagetop