月夜の翡翠と貴方


「…っあなた方がいなければ、私は今頃、なにもかもから逃げていました。本当にありがとう」

震える声。

…けれど、彼女が泣いたときに、支えてくれるひとはもう、隣にいる。


ロディーはセルシアの肩にそっと手をのせると、柔らかく微笑んだ。

「…俺からも、礼を言いたい。自分でもあまり器用な性格ではないのはわかっていたが、今回は本当にあなた方に救われた」

「いえ…」

ロディーには一切の事情を話し、私達が本当の召使いでないことも理解してもらっている。


「ファナさん、だったか。ありがとう」


…そうだ、何かあったときのために、一応エルガからもらった名前を使っていた。

セルシアにはジェイドだと名乗っていたので、彼女が一瞬首を傾げる。

私は少し笑うと、「ジェイドです」と改めて自己紹介をした。


「ファナではなく、私の本当の名前はジェイドというんです、ロディー様」

「え…そう、なのか」

「はい。嘘をついて申し訳ありませんでした」


頭を下げると、「そ…そうなのか」とロディーの納得しきれないような、戸惑う声が聞こえて、みんなで笑った。


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