月夜の翡翠と貴方


「…たぶん、追って来てる。俺を」

「……………!」

ルトは崖を見つめて、苦い顔をした。

「…まずいな」

来て、とルトが私の手を掴んだ、そのとき。



「そうはいかない」

ガサ、と音がして、何人も男が木々の向こうから姿を現した。

…ああ、そんな。

「友人どのは、逃げ足が早い」

「…どうも」

今にも舌打ちをしそうな顔をして、ルトはレグートを睨む。

レグートは一歩、こちらへ歩み寄った。

私達も、後ろへ下がる。



「…いい加減諦めたほうが、あなた達にも得策だろう」

ニヤ、と笑って、こちらへ来る。

「友人どのは、生かしてやる。その代わり、マリアを渡してくれ」

「嫌だって何度言ったらわかるんだよ」

ルトは私の前に立って、剣を握りしめる。

レグートは目を細め、ルトの後ろにいる私を見つめた。


「…あなたは、やはり守られてばかりだな」


…………ああ。

それは、そうだ。


< 547 / 710 >

この作品をシェア

pagetop