月夜の翡翠と貴方
「単に、ひとつのところにとどまっとくのが嫌なだけ。自由が好きっていうか、なんかに縛られるのが好きじゃないんだよ」
…ルトが、自ら自分のことを話してくれている。
「…確かに、自由奔放ってかんじがする」
呟いた言葉に、ルトは「そう?」と首を傾げた。
彼を見ていると、猫のようだな、と思うときがある。
自由で、気づけばひとりでいろんなところに行ってしまうような。
「…だから、依頼があればそこに行くし、なければ気に入った場所にしばらくいて、また場所変えたりしてさ」
私は、ひとつひとつを聞き逃さないように、静かに聞いていた。
ルトは口元に笑みを浮かべたまま、話を続ける。
「食いもんだって、適当にそのへんの市場で買って、適当なとこで食べて……どっかの酒場とか、ひとりで行ったことなかったんだよね」
…そう、だったのか。
意外な事実に、驚く。
パイを食べ終えた私を見て、ルトは優しく微笑んだ。
「…今まで、こうやって当たり前に隣で同じもの食べてる奴とか、いなかったんだよ」
ルトが、私の口元を指で拭う。