月夜の翡翠と貴方


目を見開く私を見て、ルトは目を細める。


「…友達もいるし、別にいつもひとりってわけじゃないけどさ。朝起きたら隣に人がいて、一緒に食事して…とか、初めてだったから」


…ルトが、エルガの奴隷屋を訪れて、もうすぐ一ヶ月が経つ。

けれど、ルトはこんなこと、今まで言わなかったから。


「……なんか、いいな。隣に人がいるの。隣にお前がいると、安心する」


………そんな、こと言われたら。

嬉しいと、感じてしまう。

自惚れてしまう。

私の存在が、ルトに何かを与えているんじゃないかと、自惚れてしまう。


「………ルト」

「ん?」


…離れたくない。

そう言ってしまったら、きっとルトを困らせる。

ルトは優しいから、きっと私のことを考えてくれるでしょう。

でも、駄目なのだ。離れなければ、いけないのだ。

ルトは、私を捨てなければいけない。


…わかっているんでしょう?


ルトだって。私を、いずれ捨てること。

なのに、なのに。

どうして、そんなこと言うの。


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