月夜の翡翠と貴方


「昼頃には着くから、昼食はいいか。真っ直ぐ行こ」


「…………え、ああ、うん」


思わず返事が遅れる。

…先程の朝食が、ルトとの最後の食事だったのか。

胸の動悸が、少し激しくなってきた。

…落ち着かないと。

わかっていたことなのに。

別れは近い、と。

…いや、まさか今日だとは思っていなかったが。


ルトに気づかれないよう、小さく深呼吸をする。


…目的地のことを、突然今日の朝言ったのは、きっとわざとだ。

早いうちから言って、気まずくなるのを避けたのだろう。

ルトなりの優しさ。

なのに、それを素直に受け止められない私がいる。

駄目だ。決めたじゃないか。

離れるときは、惨めな奴隷になるのだ、と。

ルトに迷惑はかけない。

そう…決めたのに。

どうして、こんなにも。


息をするのさえ、苦しいのだろう。



< 577 / 710 >

この作品をシェア

pagetop