月夜の翡翠と貴方
ルトはいつも通りに話しかけてくる。
せめて気丈に振舞おうと、懸命に相槌を打つ。
これが最後。
これが最後。
そう思いながら、ルトの言葉と声を、私のなかに焼き付ける。
…ルトを困らせる、だけだから。
耐えなくては。
そんなふうにして、太陽が真上に登った頃。
「着いた」
予定通り、『目的地』に着いた。
そこには近くに大きな森があって、川も流れている。
自然に囲まれたところ。
だからこそ、今の光景が違和感しかなく、異様に見える。
目の前に広がるのは、頑丈でかつ装飾の施された、鉄の柵。
そして高い草の塀。
しかも、とても長い。
ルトが柵を開ける。
そして、まず見えたものは。
「…………」
ー…大きな大きな、貴族邸だった。
「…ル、ト」
反射的に進むのを躊躇う。