月夜の翡翠と貴方
しかし、ルトはなにも言わずに歩みを進める。
どうして、貴族邸?
ここが本当に、『目的地』?
「…フード、被っとけ」
小さな、低い声。
私はルトの様子がいつもと違うのを感じて、なにも言わずにフードを被った。
…ああ。
今の、ルトは…きっと。
『仕事』のときの、ルトなのだ。
いよいよ上手く、息ができなくなる。
嫌な予感しかしない。
辺りを見回せば、大きな庭園。
真ん中に噴水があって、奥に貴族邸の大きな扉がある。
見るからに、多くの富を費やしてつくられたもの。
ここに住んでいるのは、確実に上級貴族だ。
ルトはなにも言わない。
顔を見るのが怖くて、声は愚か見上げる事もできない。
扉の前につくと、ルトはやはりなにも言わずに、扉をノックする。
するとしばらくして、召使いらしき若い女が扉を開けた。
ルトの姿を見て、あ、と口を開ける。
ルトは、優しい笑みを浮かべて、軽く礼をした。