月夜の翡翠と貴方


「シズ・ヘンテです。マテン氏はご在宅でしょうか」


…シズ・ヘンテ?

ルトが名乗った名前は、私の知っている名前ではない。

ルトの名前は、ルト・サナウェルだったはず。


「シズ様ですね。少々お待ちください」


パタパタと、召使いが主人を呼びにいく。

マテン氏、とルトは言った。

それは、きっとここの主人の名で。


「……」

玄関先で、待たされる。

ルトはやはり、こちらを見向きもしない。

…いや、きっとこれが正しいのだ。

今までの関係が、おかしかっただけで…


やがて召使いに呼ばれたのか、若い男が奥からこちらへ歩いてきた。


「待っていたよ、シズどの。約束の『品物』は持ってきてくれたかな」

上等そうな衣類を身につけた、優しそうな若い男は、ルトの姿を見て、嬉しそうに笑う。


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