月夜の翡翠と貴方
「……ええ。ご期待に添えるかはわかりませんが」
低い声と穏やかな笑みを浮かべたルトが、ちら、とフードを目深にかぶった私に目をやった。
「…それか。君の届けてくれた『品物』は」
マテンが、こちらを見つめて目を細める。
…なんだろうか。
とてもとても、嫌な感じがする。
上級貴族邸に、知らない貴族の男。
知らない名前と、まるで貼り付けたような、彼の優しい笑顔。
…私の事を指しているのだろう、『品物』という言葉。
全てが、恐怖と違和感と、嫌悪しか与えてくれない。
マテンは私を見てニヤ、と笑むと、満足気にルトに声をかけた。
「…フードを取るのが楽しみだよ。報酬は今日中に決めておくから、明日また来て欲しい」
「…わかりました」
そう言うと、ルトはトン、と私の背中を押した。
予想していなかったことに、私の体は前に傾く。
それを支えたのは、不気味なほど笑顔をたたえたマテンだった。
私の顔を見た瞬間、ますます口角を上げる。
鳥肌がたった。