月夜の翡翠と貴方


「さすがシズどのだ…!想像以上の逸品!報酬は高くせねばな」


マテンが息を荒くして、シズと呼ばれるルトを褒める。

けれど私は、ただただ呆然としていた。


シズ、なんて知らない。

私はルト・サナウェルしか知らない。

先程から言っている、『品物』だとか、『報酬』だとか。

…さすがに知識のない私でも、わかった。

…ああ。

ルトは、確かに捨てたのだ。

先程、玄関先で。

私の背中を、押して。


『私』を、マテンに渡した。


…わかってしまった。

『品物』である私を、マテンに渡す。

それが、ルトの受けた依頼なのだ。


マテンはひとしきり興奮を滾らせた顔で私を見つめると、ふたりの召使いの男を呼んだ。


< 584 / 710 >

この作品をシェア

pagetop