月夜の翡翠と貴方
「さすがシズどのだ…!想像以上の逸品!報酬は高くせねばな」
マテンが息を荒くして、シズと呼ばれるルトを褒める。
けれど私は、ただただ呆然としていた。
シズ、なんて知らない。
私はルト・サナウェルしか知らない。
先程から言っている、『品物』だとか、『報酬』だとか。
…さすがに知識のない私でも、わかった。
…ああ。
ルトは、確かに捨てたのだ。
先程、玄関先で。
私の背中を、押して。
『私』を、マテンに渡した。
…わかってしまった。
『品物』である私を、マテンに渡す。
それが、ルトの受けた依頼なのだ。
マテンはひとしきり興奮を滾らせた顔で私を見つめると、ふたりの召使いの男を呼んだ。