月夜の翡翠と貴方


もう、わからなくなってきた。


どうしてこうなることがわかっていて、ルトはあんなに私に優しくしたのだろう。

酷い、ずるい。

あんなもの、優しさでもなんでもない。

…そう思っては、唇を噛んで。


……結局は私だってそうなのだ、と思う。


最初に、懐きすぎてはいけない、とわかっていた。

けれど私は、どうやら私が思っている以上に、ルトに懐いていたようで。

離れるときは、それなりの苦しさだとかは、覚悟していた。

けれど、ここまでとは。


….寒くて、冷たい檻のなか。


隣に、茶髪が見えない。

深緑が、あの笑顔が、ない。

それだけで、こんなに凍えそうになっている。

手を繋がなかった、右手が冷たい。


そこで、地下の扉が開く音がした。

急いで涙を拭い、フードを被る。

力なく横たわり、惨めな奴隷のふりをした。



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