月夜の翡翠と貴方
マテンは変わらない無表情の私を見て、ニヤ、と笑った。
「…私の名を、呼んでみなさい」
碧の髪の一房を掬って、さらさらと落とす。
私はその言葉の意味を察して、少しだけ眉を寄せた。
「……マテン、様」
.....ああ、だめだな。
嫌な気分しか生まれない。
私の心情を気づいているのかいないのか、マテンは変わらぬ気味の悪い笑みを浮かべている。
髪を触る手を離すと、彼は私の頬に触れた。
「…白い肌。実に美しい」
触れられている部分から、何か真っ黒に染められているような気分になる。
嫌な感覚。
ルトの触れたあとを、消されるように。
マテンは、私に跪くよう指示をした。
言われた通り、椅子に座るマテンの前に膝をつく。
絨毯は柔らかく、上等な毛が、今は逆に気持ち悪く感じた。
…質素な布が、落ち着く。
絹は合わないな、と、この場に合わぬ考えが浮かんだ。