月夜の翡翠と貴方
そろそろ、奴隷屋まわりも疲れてきた。
出来ればこれで、最後の店にしたいのだが。
少し歩くと、井戸が見えた。
そこにいたのは、灰色の服を身に纏い、フードを目深に被った少女だった。
*
「そこのおじょーさん」
声のしたほうを見ると、ひとりの青年が立っていた。
少女と、同じぐらいの年だろうか。
端正な顔立ちをした彼の目は、どうやら自分に向けられているようだと気づき、少女は眉を寄せる。
「………なんでしょうか」
井戸から汲んだバケツを地面に置き、青年へ向き直る。
彼は、明るい笑みを浮かべていた。
「ね、君もあの奴隷屋の子だよね?」
そう言って青年が指差すのは、少女が奴隷として日々を過ごすテント。
「……そうですが」