月夜の翡翠と貴方
「どうした?呼べと言っている。お前の主人は、この私だ。全く、躾のなっていない奴隷だな」
…嫌、だ。
嫌だ。嫌だ。
「……………っ」
それだけは言いたくなかった。
今までは、簡単に言えたけれど。
誰の事も、本当に忠誠を誓う主人だと思っていなかったからこそ、簡単に口にできた。
けれど、今は…………
あの人以外を、そう呼びたくない。
「……呼べないのか」
益々ぐい、と髪を引っ張られた。
マテンの笑みの底にある目が、段々と怒りを含んだ暗闇に染まっていく。
瞳に浮かびそうになる涙を堪え、私は震える唇を開けた。
「…ごっ…主人…様っ…」
…仕方なく、だから。
ご主人様だなんて、少しも思っていない。
…ああ、もう。
私は自分に、他人に、嘘がつけなくなってしまった。