月夜の翡翠と貴方


「…………あぁ、そっか…」


もういないのか、とひとり呟く。

一瞬、逃げたんじゃ、と馬鹿みたいな考えが浮かんだ。


…俺が捨てたくせに。


瞼が重く、腰が痛い。

ひとりの夜は久しぶりで、なんだか無性に眠れなかった。

ただ、一ヶ月前の生活に戻るだけなのに。

どうしてこんなに、ジェイドが隣にいることが、当たり前になってしまったのか。


一ヶ月前までは、ひとりで丁度いい大きさのテントを、のんびりと使っていた。

ジェイドを買ってからは窮屈で、脚を広げることさえできなかった。

けれど、またひとりでこのテントを使うと。

急に、まるでひとりでは広すぎるように感じたのだ。

隣には、何もない空間。

無意識に開けたまま寝てしまったらしい。


「……駄目だなぁ…」


荷物も何もかも、ない。

ジェイドがいた跡は、もう残っていない。

けれど無意識にその跡を探したくなる自分が、どうにも馬鹿で笑えた。



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