月夜の翡翠と貴方


「……マリア。貴女はやはり、黙ったままなのだね」


…え?

私の家族を奪ったその人は、私に向けたことのない感情を、その目にわずかに宿していた。


「…黙っていて、流されるまま。抵抗しようとしない」


…だってそれは、意味のないことだから。

捕らえられて閉じ込められて、逃げようなんて、無駄な事だから。

そうでしょう?

疲れるだけじゃない。

どうでもいいと、思うのがいちばん楽で。

なにも感じずにいるのが、唯一私が私を守る術。


「………では、今もそれができるのか?」

…今?

ナタナは、何故か哀しそうに、目を細めていた。


「今も、なんの感情も湧かずに、いられるか?」


…何故、そんな目をしているの。

あなたじゃないみたい。

いつも、私を見て、微笑んでいたじゃない。

いつも、私を蔑んでいたじゃない。

…ああ。一度だけ、違うときがあった。


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