月夜の翡翠と貴方
はじめてナタナが私を寝台へ呼んだとき。
朝起きて目を開けると、隣であなたは、見た事のない微笑みをしていた。
哀しそうで、悲しそうで。
いつも向けられる、侮辱の眼差しは、そこにはなかった。
一度だけそのとき、何故、という感情が湧いたのを、思い出す。
数ヶ月人形のようだった私の、久しぶりに湧いた感情。
「…………欲しいものは、ないのかい?」
…欲しいもの。
そんなもの、ない。
そもそも求めるだけ、無駄でしょう。
どうせ手に入らないのだから。
手に入っても、すぐに離れていくのだから。
「…それでは、いつまで経っても、貴女は手に入れる事ができない」
幸せを、とナタナは言う。
…幸せ?
私の家族を死に追いやったあなたが、私の幸せを口にするの?
「…私だから、だよ」
…わからない。
幸せなんて、手に入らない。
家族が手に入らなかったものを、私が手にいれてはならない。