月夜の翡翠と貴方


「…貴女は、充分後悔しただろう。たくさんたくさん、思って、悩んで、悔いただろう」

…ええ。

しかし私はそれから、逃げる事は赦されない。

そうでしょう?

「…それは、そうだ。背負った罪は、なくならない。けれど、また貴女は繰り返すのか」


…何を?


「何もせずに、抵抗せずにいたあの頃と、同じ後悔を」



…同じ、後悔…?

無表情だった、私の眉が少し動く。

「貴女は、家族皆に愛され、流され、何もせぬまま、後悔したのだろう?」

そう。

家族の優しさに甘え、逃げていた。

それが私の罪であり、後悔で。


「…また、貴女は繰り返そうとしている。無駄だといって何もせず、欲しいものが手に入らなかった、後悔を」


夢のなかで私は、立ち尽くしていた。

ナタナの言葉に、ただ目を見開いていた。


「…黙ったままが、必ずしも平穏をもたらすとは、限らないよ」


私のなかの、幻想のナタナが微笑む。


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