月夜の翡翠と貴方
「…着替えていただきます」
…着替えたあと、檻に入れば、私はきっと完全に、コレクションになる。
マテンのものに、なってしまう。
…わかっている。
もう、逃れられないと。
けれどどうして、こんなにも。
苦しいほどに、心が叫んでいるのだろう。
愛しい、あの人の名を。
*
がぶ、と林檎をかじる。
カナイリー家の周り、森の近くの木々の上で、俺はひとり、ぼうっとしていた。
「…………」
昨日から感じる憂鬱感。
なんだかとてもつまらない、という気持ち。
『しばらくは、ひとりでのんびり』なんて言ったが、このかんじでは、これから確実につまらない。
隣に人がいないのは、当たり前だった。
なんとも思わなかったし、別段寂しいという思いもなかった。
けれど今は、違う。
きっと、どんな賑やかな街に行こうが、ジェイドがいないのでは全くつまらないだろう。
話しかける相手がいない。
一緒に食事をする相手がいない。
…凄く、つまらない。
「………はぁ」
マテンが、部屋にジェイドを連れて来たのには、さすがに参った。