月夜の翡翠と貴方


「…着替えていただきます」


…着替えたあと、檻に入れば、私はきっと完全に、コレクションになる。

マテンのものに、なってしまう。


…わかっている。

もう、逃れられないと。

けれどどうして、こんなにも。


苦しいほどに、心が叫んでいるのだろう。


愛しい、あの人の名を。







がぶ、と林檎をかじる。


カナイリー家の周り、森の近くの木々の上で、俺はひとり、ぼうっとしていた。

「…………」

昨日から感じる憂鬱感。

なんだかとてもつまらない、という気持ち。

『しばらくは、ひとりでのんびり』なんて言ったが、このかんじでは、これから確実につまらない。

隣に人がいないのは、当たり前だった。

なんとも思わなかったし、別段寂しいという思いもなかった。


けれど今は、違う。


きっと、どんな賑やかな街に行こうが、ジェイドがいないのでは全くつまらないだろう。

話しかける相手がいない。

一緒に食事をする相手がいない。


…凄く、つまらない。


「………はぁ」

マテンが、部屋にジェイドを連れて来たのには、さすがに参った。



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