月夜の翡翠と貴方


あちらはこちらの事情を知らないにしろ、俺はジェイドに合わせる顔がない。

上品な服装の彼女は、俺の知らない人間に見えた。

他人行儀の挨拶に、苛ついた。

無表情に、苛ついた。


…俺が、そうさせているのに。


いちばん苛ついたのは、目の前でジェイドがマテンに触れられているときだ。

まるでそうすることが当たり前だというように、マテンは彼女に触れた。

.....心底、触れるなと思った。

ジェイドも、振り払ってしまえば良いものを。

無表情で、されるがままで。


あれは間違いなく『嫉妬』であったと思い、自分で呆れる。

そんな感情を、俺が持って良いはずがない。

まず、仕事用の顔をしていた俺を、ジェイドは絶対に快く思っていないだろう。

今までの彼女の発言から考えて、たぶん『ルト、気持ち悪い』に違いない。


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