月夜の翡翠と貴方
…情けない。
もう、二度と泣かないと誓ったのに。
「………………」
男は、なにも訊いてこない。
ルトのことで泣いてしまったことに、気づかれているだろうか。
彼は黙って、部屋の机に置かれている箱を手にした。
そして、こちらへ持ってくる。
………どこかで、見覚えのある箱だ。
男が、箱に巻かれたリボンを解いていく。
記憶を懸命に探り、思い出した頃には、箱は開けられていた。
…………ああ。
その、箱は。
その箱は……………
出てきた薄い橙の布地を見て、私は目を見開いた。
…嘘でしょう。
そんな、そんな。
男が、手にしているもの。
それは、ミューザの街で買った、あの橙のドレスだった。