月夜の翡翠と貴方
初めて、『私』が口を開く。
聞かれなくてもいい。
届かなくてもいい。
心の、叫び。
*
「……では、私は少し出ますので」
召使いの男が、部屋を出ていく。
彼は何やら用事があるとかで、少しの間部屋をでなくてはならないらしい。
残された私は、箱の上に広がった薄橙のドレスを見つめた。
その横には、小さな箱がある。
ストラップシューズの入った箱だ。
「……このため、だったんだね」
ぽつり、と呟く。
その声が含んでいるのは、悲しい感情で。