月夜の翡翠と貴方


初めて、『私』が口を開く。

聞かれなくてもいい。

届かなくてもいい。



心の、叫び。








「……では、私は少し出ますので」


召使いの男が、部屋を出ていく。

彼は何やら用事があるとかで、少しの間部屋をでなくてはならないらしい。


残された私は、箱の上に広がった薄橙のドレスを見つめた。

その横には、小さな箱がある。

ストラップシューズの入った箱だ。


「……このため、だったんだね」


ぽつり、と呟く。

その声が含んでいるのは、悲しい感情で。




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