月夜の翡翠と貴方


唇を噛んで、ドレスを手にとる。

ぐ、と力を込めた。


....引き裂いてしまいたい。

ビリビリに引き裂いて、思い出ごと壊してしまいたい。


「…………っ」


けれど私の手からはすぐに力が抜け、布地はぱさりと床へ落ちた。


…引き裂くなんて出来ないこと、私がいちばんよくわかっている。


思い出を壊すなんてこと、出来ない。

ルトが見つけてくれた。

『可愛い』と言ってくれた。

『綺麗』と言ってくれた。


美しい言葉を、たくさんくれた。


…もう、嫌になる。

嫌いで、でも好きで。

もう、自分の感情さえよくわからない。

ひとつだけわかるのは、どこまでも…どこまでも。


ルトが、私を支配しているということ。



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