月夜の翡翠と貴方
私はブラウスとスカートを脱ぐと、ドレスに袖を通した。
…わかって、いた。
知っていた。
足首より少し上の裾が、ふわりと揺れる。
…わかって、いたよ。
これをもう一度身につけるとき、もうルトはそばにいない、と。
ストラップシューズに足をいれる。
着飾った姿を、見て欲しい人はもういない。
鏡台の前に立つ。
鏡に映った、私の顔は。
ー…驚くほど、情けない顔をしていた。
そこで、コンコン、と扉をノックする音がした。
「着替え終わりましたか?」
召使いの男が、戻ってきた。
「…………はい」
奴隷の着替えさえ、扉をノックするとは、紳士すぎる男だ。