月夜の翡翠と貴方


彼は静かに扉を開けると、私の姿に気づいた。

そして、やはり微笑んだ。


「…お綺麗です。お見立てはシズ様がされたと伺っております。よくお似合いですね」


私は少しの間黙ったあと、小さく笑って「…ありがとうございます」と言った。


「マテン様は今、少しご用があって私室におられます。もうしばらくお待ち下さい」


そう言うと、男は私に近くの椅子に座るよう促した。

私が腰掛けると、彼はその近くに静かに立つ。

…本当に、変わった男だ。



部屋の中が、しんと静まり返る。


少し落ち着かなくて、黙って立っている男に、「あの」と声をかけた。

「はい」

「…私が着てた白の服は、どこにありますか?」


ブラウス等を着たときに脱いだものは、この男が持っているはずだ。


「少し、お待ち下さい」

男は衣装入れを開けると、そこから丁寧にたたまれた麻の服を取り出した。

そして、私に渡す。

「ありがとうございます」

「いえ」

優しく微笑む姿は、本当に紳士のよう。


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