月夜の翡翠と貴方
私は着慣れた白の服を、胸元にぎゅ、と抱きしめた。
…もう、きっと着ることは出来ない。
もうすぐ、私はコレクションになるのだから。
ルトによって、おかしく狂いはじめた私の感情。
けれど、それでもまだ私が私でいられるのも、ルトという存在が、私のなかに残っているからだった。
きっと、私のなかから『ルト』が薄れていくとともに、『私』も壊れていくのだろう。
だから、最後までその思い出に触れる。
思い出を壊したい。
壊したくない。
苦しいから、彼を忘れたい。
苦しいから、彼を忘れられない。
相対する感情が、今の私を支えていた。
私を支配するものがルトである限り、私はまだ、ルトのものだと思える。
「大切なものなのですか?」
男は、静かにこちらを見つめていた。