月夜の翡翠と貴方


嫌いだ、と想って。

好き、と想う。

様々な感情が入り混ざって、おかしくなりそうになって。

そうして、この服を抱きしめて、『私』を保つのだ。




「…ジェイドさん」

しばらくして、男が腕時計から顔を上げた。

どく、と胸が痛む。

…ああ。


もう、私は。


服を置くと、私は静かに男を見据えた。


「…………はい」


男について行き、部屋から出た。

廊下を歩く。

廊下の、奥の奥へと歩いていく。


…苦しい。

息が、苦しい。

黙って、彼は私の前を歩く。

廊下はやがて行き止まり、その横の螺旋階段を降り始めた。


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