月夜の翡翠と貴方
「………………」
段々と、暗くなってくる。
きっと、また地下に行くのだろう。
私がこれから日々を過ごす、閉ざされた場所。
…きっともう、外へは出られない。
ルトが連れ出してくれた、外の世界へはもう二度と行けない。
…彼が私を買わなければ、私は何も知らないままだった。
外の美しい景色も、賑やかな街並みも、人と話す心地良さも。
…知らないままだった。
やがて階段を降り終えると、真っ暗で小さな空間の奥に、扉がひとつ見えた。
その扉の前に立つ。
「…この先に、マテン様が待っておられます」
男が静かに言う。
私は、ぼうっと前を見た。
心にあるのは、ルトへの苦しいくらいの感情と…虚しいな、という気持ちだけ。
私は感情を殺した表情で、こく、と頷いた。