月夜の翡翠と貴方


それが、マテンの言葉と表情で、真っ黒に染められていく。

「……あぁ、私の愛しいコレクション」

髪に、腕に、手に。

マテンの指先が、なぞる。


とてつもない、嫌悪が襲ってきた。

知らない指先。

きっと何度触れられても、私にとっては知らない指先だ。


いつも触れられていた、あの指じゃない。


…贅沢など、知らない手だった。

少し硬くて、骨っぽくて。

剣を持って、いつも危険と戦っていた、あの手。



「ジェイド」


そう呼ぶ声だって、違う。

あの柔らかな、心地よい声じゃない。

まるで耳のなかから、侵されていくようだ。


『ごめんな』と言った、ルトの声がまだ耳に残っているのに。



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