月夜の翡翠と貴方
…今回だって、そうすればいい。
感情を殺して檻に入ってしまえば、楽なのだ。
…けれど。
「…どうした、ジェイド」
私の足は、その場から動こうとしなかった。
…だって、もうどうしようもない。
思い出しては濁流のように、激情が押し寄せてくる。
それを私は、この狭い檻のなかで抑えることが、できそうにない。
マテンは、檻へ進もうとしない私を見て眉を寄せる。
そして、何も言わない私を見て、微笑んだ。
「…なに。怖がる事も、恐れる事もない。安全な檻のなかで、私に愛でられ過ごすのだから」
…怖いのは、そんなことじゃない。
私が怖いのは、ルトという存在が、私のなかからいなくなること。
薄れてしまうこと。
…ルトではない人に、『私』を支配されること。