月夜の翡翠と貴方


けれど、けれど、ルトは忘れてしまうのだろうか。


ただの『依頼品』だったと、記憶の底に落として。


私はそこで、ある事を思い出して、小さく笑った。


…ああ、そうだ。

確か、翡翠葛の花言葉は…



ー…『私を忘れないで』



「ジェイド!」


マテンが声を荒げる。

怒った表情で、こちらへ向かってくる。


私は、近くの棚の上にあった壺を掴んだ。

そして。


ガチャン……!


マテンの前で床に叩きつけ、割ったのだ。

目を見開き動きを止めたマテンに、私は「…がう」と呟く。

違う。

違う!

私は瞳に涙を浮かべて、マテンを睨んだ。



「私の主人は、あなたじゃない…!」



激情が襲う、私のなか。

そのなかでぽつんと、ナタナのあの微笑みが浮かぶ。

『貴女の、心の叫びが聞きたい』と言っていた。



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