月夜の翡翠と貴方
「……お前ごときがこんなこと、して良いと思っているのか」
…わかっている。
きっとこれで捕まったら、私の命はないだろう。
けれど、そんなことどうでもよかった。
私がおかしな行動を取れば、きっと私を連れて来たルトに迷惑がかかる。
それが、望み。
私に刻まれた『ルト』のぶん、ルトのなかにも『私』を刻み込んでやる。
なんて迷惑な依頼品だったんだ、と思わせて。
どうか、私を忘れないように。
切っ先をマテンに向けながら、一歩ずつ扉のほうへ下がって行く。
やがてトン、と背中が扉につくと、彼がこちらへ少しずつ向かって来た。
私は距離感を測って、ナイフを投げる。
それは見事、マテンの足の前に突き刺さった。
「ひっ………!」
思わず出たマテンの悲鳴を聞きながら、扉を開け部屋を出る。