月夜の翡翠と貴方


「……お前ごときがこんなこと、して良いと思っているのか」


…わかっている。

きっとこれで捕まったら、私の命はないだろう。

けれど、そんなことどうでもよかった。

私がおかしな行動を取れば、きっと私を連れて来たルトに迷惑がかかる。

それが、望み。

私に刻まれた『ルト』のぶん、ルトのなかにも『私』を刻み込んでやる。


なんて迷惑な依頼品だったんだ、と思わせて。


どうか、私を忘れないように。



切っ先をマテンに向けながら、一歩ずつ扉のほうへ下がって行く。

やがてトン、と背中が扉につくと、彼がこちらへ少しずつ向かって来た。

私は距離感を測って、ナイフを投げる。

それは見事、マテンの足の前に突き刺さった。

「ひっ………!」

思わず出たマテンの悲鳴を聞きながら、扉を開け部屋を出る。


< 656 / 710 >

この作品をシェア

pagetop