月夜の翡翠と貴方


螺旋階段を上がり、廊下に足を置いたとき、下からマテンの叫び声が聞こえた。


「女を捕らえろ!」


構わず、長い廊下を走り出す。

ドレス姿だが、足首より上の裾なので、走りやすい。

ストラップシューズだったことも、幸運かもしれない。

そこで、角に差し掛かった。

召使いの男の言葉を思い出す。

…左角。

もちろん地下から出なかった私には、この邸のどこに玄関があるのか、どう行けばいいのか、なんてわからない。

けれど、きっとここからどう行くかで、変わる。

…先ほどのナイフは驚いたが、ここで男の言葉を信じるか、信じないか。


「おい!そこの女を捕まえろ!」


息を切らして螺旋階段を上がってきたマテンが、後ろで叫ぶ。

こちらから見た奥の廊下の突き当たりで、召使いらしき男がいる。

男は主人のただならぬ様子に驚くと、その命令通りこちらへ走ってきた。


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