月夜の翡翠と貴方
…ああ、もう。
実に面倒だが、逃げられるところまで、逃げてみようか。
初めて抵抗するのだ。
最初で最後の、抵抗。
最後まで、走ってみようか。
私はその角を左に曲がると、またも続く長い廊下を、走る。
次の角が見えたとき、後ろから召使いの男の声がした。
「待て!女!」
私は構わず走り続け、角を左に曲がる。
やはり、長い廊下があるだけ。
私は、あまり足が早い方ではない。
きっと直ぐに追いつかれる。
この先になにがあるのかは、さっぱりわからない。
…けれど。
私は近くにあった大きな壺を、力一杯に押した。
私の身長ほどの壺。
ごろん、と大きな陶器が床にころがる。
それを、後ろの方へ押した。
ゴロゴロと、向こうへ転がる。
そしてすぐに、私は走り出す。
「待て女……………っ!?」
振り返らないので様子はわからないが、きっとこの廊下の幅ほどの長さはある壺が、道を阻んでいるだろう。