月夜の翡翠と貴方
男は、ルトを怒りの形相で見上げる。
「あぁん?誰だ、にーちゃん」
けれどルトは、全く怯む様子がない。
彼の深緑の瞳は、今日隣で見てきた明るい色ではなくて。
…暗い。
底冷えするほど、暗い。
何も言わず男を見下ろすルトに、男が立ち上がり掴みかかった。
ガタッ………男の立てた派手な音に、周りの視線が一気に集まる。
大男はルトの頭一つ分大きく、彼を血走った目で見下ろした。
ルトは、そんな男を真正面から見上げ、睨んだ。
「俺の連れなんだよ。軽々しく触んな」
…怖い。
こんな場面、いくつも見てきた。
こんな男も、何人も見てきた。
しかし、目の前で全く怯まずに男を睨みつけるルトを、私は怖いと思った。