月夜の翡翠と貴方
「…私の事は、いつから?」
知っていたのか、と訊くと、イビヤは「そうですね…」と少し考える素振りをした。
「…あなたが邸に来た日の夜に、ミラゼにあなたのことを聞きまして」
…では、ルトに会って泣き崩れた私を見たときには、もう事情が知られていたのか。
私はイビヤを真っ直ぐ見つめ、頭を下げた。
「……えっと…色々、ありがとうございました。ナイフ、置いておいて下さったのも、道を教えて下さったのも…」
「いえいえ。だいぶわかりにくいもので、すみません」
「いえ………本当に、ありがとうございます」
お互いにお辞儀をし合い、顔をあげると、私達は笑いあった。
…彼の性格に、助けられた。
きっと、彼ではない召使いがいたら、私は今頃ここにはいなかっただろう。
私達のやりとりを見ていたミラゼが、「仲いいわねぇ」と呟いた。