月夜の翡翠と貴方


「…私の事は、いつから?」

知っていたのか、と訊くと、イビヤは「そうですね…」と少し考える素振りをした。


「…あなたが邸に来た日の夜に、ミラゼにあなたのことを聞きまして」


…では、ルトに会って泣き崩れた私を見たときには、もう事情が知られていたのか。

私はイビヤを真っ直ぐ見つめ、頭を下げた。

「……えっと…色々、ありがとうございました。ナイフ、置いておいて下さったのも、道を教えて下さったのも…」

「いえいえ。だいぶわかりにくいもので、すみません」

「いえ………本当に、ありがとうございます」

お互いにお辞儀をし合い、顔をあげると、私達は笑いあった。

…彼の性格に、助けられた。

きっと、彼ではない召使いがいたら、私は今頃ここにはいなかっただろう。


私達のやりとりを見ていたミラゼが、「仲いいわねぇ」と呟いた。


< 693 / 710 >

この作品をシェア

pagetop