月夜の翡翠と貴方
危険だ、と思った。
この青年は、一体どの様な人間を必要としているのか。
テントの中にいる子供達では、満足しなかったのだろうか。
外にいる自分のところに来てまで、特定された人材が欲しいのか。
なんにせよ、早くこの場から立ち去りたい。
少女は、青年の後ろに見えるテントへ視線を移した。
バケツを持ち、青年からなるべく離れ、早足でテントへ向かう。
しかし、青年には少女の足を止める事など、造作に無いことだった。
「おっと」
その言葉と同時に、一瞬にして青年が少女の目の前に現れる。
フワ、と軽やかに地面に足をつけると、足元の草がふたりの周りを舞った。
驚く間もなく、青年はフードに手をかける。
それに反応して、少女は咄嗟に両手で顔を隠し、うずくまった。
両手から離されたバケツが、地面に落ち、辺りを水で溢れさせる。