月夜の翡翠と貴方
「逃げないよ」
あてもないのに、どこへ逃げるというのか。
さらさらと夜風が吹くなかで、ルトは拗ねたように唇を尖らせた。
「……だって、俺に買われる前は、あんなに逃げてたし。よっぽど買われるのが嫌なんだろうなって、思ってた」
……それは、そうだ。
エルガの店にいられたら、それなりに幸せだったとは思う。
しかし、到底そんなことは不可能なことも、わかっていた。
私が奴隷である限り、エルガの店に留まっていることなど、できないのだ。
「……どうせつかまるなら、抵抗するだけしてつかまったほうが、せめて気分はいいでしょ」
「……そういうもんなのか?」
「私はね」