心の闇
第一話:ある小さな国の人々の話


ある小さな国の国王が、お抱えの画家に自分の自画像を描かせたのでございます。
国王は画家の見事な作品に大満足し、褒美として沢山のお金をお与えになったのでございます。

褒美を頂いた画家は、その足で一軒のガラス細工屋へ向かったのでございます。
愛する妻への贈り物を買う為でございました。
画家は目に止まった可愛らしいうさぎの細工を指差し、袋からお金を取り出すと職人に支払ったのでございます。

その後職人は仕事を一段落させると、売上の入った小さな箱からお金を取り出し、奥さんへ渡したのでございます。

お金を預かった奥さんは少し豪華な夕食を買いに、肉屋へ出掛けたのでございました。
そして、肉屋で上等な肉を選ぶと、奥さんは肉屋の主人にお金を支払ったのでございます。

肉屋の主人は店を閉めた後、ほくほく顔で行きつけの飲み屋へ行ったのでございます。
散々飲んでたらふく食べて、心地良く酔い潰れた後、肉屋は飲み屋の店主にお金を払い出て行ったのでございます。

飲み屋の店主は年を重ねたおばあさんでございました。
おばあさんには、とても可愛がっている美しい孫娘が一人おりました。

おばあさんは、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている孫娘の枕元にこっそりお金を置くと、喜ぶ孫娘の顔を想像し、優しく微笑んで自分も眠りについたのでございます。

翌朝、目を覚ました美しい娘は、枕元のお金に気が付くとたいそう喜び、おばあさんにお礼を言うと、外へ飛び出したのでございます。
愛する恋人の元へ向かう為でございました。
娘の恋人は、お金の工面に困っておりました。
娘は恋人にお金を渡すと、キスをし、また会いに来るからと別れたのでございました。

娘と別れた男が向かった先は、別の女の家でございました。
男は女にお金を見せびらかし、あの馬鹿な娘は体の良い金づるだと笑ったのでございます。

その頃、国王は誇らしげに自画像を眺め、画家は妻と仲むつまじく、ガラス細工職人は今日も仕事に精を出しておりました。
奥さんは職人を陰から支え、肉屋の主人の掛け声は今日も元気であります。

おばあさんはニコニコ笑顔で花壇をいじっておりました。

美しい娘は、いつか恋人と結ばれる事を願っておりました。



~了~
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