フェイス
「時永君から離れてくれれば痛い思いもしなくて済むのに」


 斎藤先輩が笑った。

 タイミングを見計らったように女ヤンキーが拳を振るった。

 私は後退して避けた。

 華麗に避けたはずだったのに、疲労のせいでバランスを崩した。

 その瞬間に蹴りが見事にお腹に入って私地面に転がった。


 完全に下がってしまった私の作戦ミス。

 ここは避けながら踏み込んで急所に一発の場面だったのに。


 思えば、いつも相手は男で、女だと加減がわからない。

 見上げれば斎藤先輩が私を見下ろしていた。


「私達だって、本当はこんなことしたくないのよ?」


 嘘吐き、醜い顔。楽しんでいるくせに。
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